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気まぐれ日記::カレー・タイム・ブルース
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カレー・タイム・ブルース
結構な長生きをしてますと、同世代の知人と何気なく“ついこの前”の事のように交わす雑談が、軽く二十年から三十年前もの、とんだ昔の話題だったりしてばかりです。

ちょうどつい二十年くらい前のこと、既に人生の落ちこぼれ生活を歩んでいた私ですが、当時私は板橋区のときわ台というところの、東武東上線の線路際のボロ屋敷で生息しておりました。
隣駅の上板橋に棲む先輩の漫画家浪人(以前お話しした雑巾タオル氏)が単行本描き下ろしの仕事を引き受け、定職もなくほとんど風来坊生活だった暇人の私は、彼のアシスタントを引き受け、自室から歩いて通っていたのでした。

その当時、私は件の雑巾タオルの紹介で、彼と共にヤングJ誌で連載を持つ先生のアシスタントを、たまにやらせてもらっていました。
アシスタントとしての技量が碌にない私は、最後の仕上げの時にしか呼ばれず、生活維持はできないくらいの小遣い銭程度の収入でしたが。

その先生の下で連載当初より勤めていたという先輩アシスタント男性がおりまして、その人は自称料理上手。
ある日、彼は前日から制作に及んだ自慢の手作りカレーを鍋ごと冷凍させて、それをオートバイの後部座席に括りつけ、原稿に追われる同僚の雑巾タオル宅まで、遥か小金井市より差し入れにやって来たのです。

雑巾タオル先輩は、タオルが雑巾と化してもそのままタオルに使う程の屈強な精神力を持った御仁ですから、その住まいは言わずもがな驚異的ゴミ溜め屋敷。彼の木造風呂なしアパート2DKのゴミ屋敷にて、原稿制作作業の合間に、その夜は野郎三人でささやかなカレーパーティーと洒落込んだのであります。

もちろん彼自慢のこだわりカレーはとても美味しく、男所帯の殺伐としたゴミ屋敷では暫し和やかな歓談が繰り広げられました。
傍らで飛び交うハエたちの動きも心持ちリズミカルです。


そして後日。自慢のカレーを差し入れに来ては颯爽と愛車のアメリカンバイクで去って行った彼の姿に少なからず憧れを抱いてしまった私は、負けじと今度は私が、仕事中に手料理を振る舞うことを、雑巾先輩に宣言したのです。

テーマは『肉じゃが』!
彼のゴミ屋敷に向かう行きがけに食材を買い込み、雑巾屋敷の地獄図の様な台所を拝借し、原稿の手伝いは後回しに、私は料理の腕を揮って、特製肉じゃがの制作に及んだのでありました。

ゲストは先日のカレー職人氏。
今回は私の特製肉じゃがを囲んで、男同士楽しく談笑……の、つもりでいたのですが…。


私の手料理を一口頬張るや、彼等の表情が俄かに曇り出しました。
「な、何これ!?」「何入れたの!?」

楽しい筈の食卓に不穏な空気が流れ、ゴミ屋敷内には暗雲が立籠め、私は一気に窮地に陥ってしまいました。

私の秘伝隠し味は、どうやら全然隠れてはいなかった様で、「駄目駄目、肉じゃがに粉チーズなんか入れちゃ!」だの、「和食の基本は味醂だよ味醂!味醂も知らないの!?」だの先輩諸氏から懇々と説教を受け、当然誰も箸が進まず、仕舞いにはまるで通夜の席のように座がシンミリしてしまい、それは消沈した夕食のひと時となってしまいました。
傍らのハエたちも我々の気不味い気配を察したのか、生ゴミの片隅でしょんぼりと羽を休めています。
まだ年端も行かぬ子バエが何もわからず静寂を破ってブ~ンと飛び出したら、慌てて親バエが「シッ」と子バエを引き戻し、小声で窘めながら生ゴミの奥にそそくさと隠れて行きました。

私の手料理は山盛りのまま置き去りにされ、その晩のメインディッシュは近所の肉屋で買って来たコロッケだったということで、その場に居合わせた人々の記憶から私の特製肉じゃがは永遠に封印されたのでありました。


あの時に私が得た教訓は、『美味しい料理は場を和やかにするが、不味い料理は場を破壊する』であります。

以来、私は肉じゃがを制作した事はなく、人様に手料理を振る舞った事は一度たりともありません。
そんな私ですが、自らの食生活のためには日々料理の腕を揮います。
と申しても、肉や野菜を炒めたり魚を焼いたり蕎麦やパスタを茹でたり…と、料理ではなくただの加熱だけと言えましょうが。

唯一の例外としては、たまにカレーを作るくらいでしょうか。
昨夜は久々に、玉葱を炒めて炒めて飴色になるまで炒めて、大鍋に移し、炒めた牛肉に人参,レンジで柔らかくしたじゃが芋と加え、自家製カレー作りに勤しんだのであります。


ガメラカレー.jpg

写真だと、なんかマズそーだね、やっぱり…。

もちろん、私のこの特製カレーは、これまで私自身しか食したことはありません。
ちゃんと、美味しかったですよ、私には充分。

原稿に精一杯な生活に突入して外出や食事もままならない時には、カレーを作っておくのが一番!と、スーパーに食材を買いに行き、カレー作りに勤しみ、お腹を満たしたら、カレー騒動ですっかり疲れ果て、原稿は進められずグッスリ爆睡…のお間抜けコースも、私には最早定番です。


年に何度かですが、カレーを作る度に、私はあのカレー作りが得意だったアシスタント仲間の彼のことを思い出してしまいます。
私が、男で料理自慢の輩を信用せず、どうも好きになれないのは、どうやら二十年昔のあの苦い一件以来のことのようであります。
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