あゝ路上
2014-10-10 21:42:53 (9 years ago)
いけません。
人生、このままではいけません。
私も、遥か昔…漫画界に身を投じる以前の二十歳頃までは、まだ日々様々な変化や成長があり、夢と頭髪にも恵まれ、この先の我が人生に多大なる期待を抱いておりました。
それがどうでしょう。
夢多きあの頃から幾星霜…。
身も心も砕かれ幸薄く世から蔑まれ、今や不貞腐れた小汚い独り身の老体に他なりません。
そこで、自己の存在を今こそ確認すべく、また新たなる自身の発見を臨み、路上ライブ敢行です。
新宿南口の名物ブルースマン、Mr.テキサスの演奏サポートを名乗り出た私は、知人のドラマーF氏をも誘い入れての、路上ライブ初体験に挑んだ次第です。
この為に私は電池駆動のベースアンプを、そしてF氏は初めて扱うカホンを購入しての参戦。
昨夜のこと、新宿で合流した我々オヤジ組。
まずは景気付けに居酒屋で軽く一杯引っ掛けます。
軽く…と言ってまたいつの間にやらヘベレケになるまでアルコールを浴びてしまっては、今回ばかりは話になりません。クソ重い荷物を腰痛覚悟で運んできた意味がありません。
程よく酩酊気分になったところで、更にコンビニで缶ビールを買い込み、今宵のステージ、新宿駅南口前のガード脇一角を陣取ります。
Mr.テキサスから概略は伺っておりましたが、お話の通りで早々にその “敵” は我々に目をつけ絡んで参りました。
そう、お巡りさんです。
「コラコラ、君たち、わかってるよね?ここでの禁止事項は」
たとえ人様から怪しまれようと職種を訝られようと婦女子から煙たがられようと、清廉潔白に日本の法律に従って慎ましく生きてきた私であります。
それが人生後半に来て、まさか警察のご厄介になろうとは思いもよりませんでしたが、しかしここで怯んではいられません。
こう見えても、反逆のロッケンローラー人生を歩んできた荒くれ者です。
向こうでもお巡りさんが、熱唱するご婦人を咎めております。
あっちでも、フォークギター一本をお供に涙ぐんで歌っていたお兄さんが国家権力から注意を受けて止められています。
こっちもまたしょうもないバンド連中が悪びれもせずおっ始めやがって…と近寄って来た若い警官、我々を間近にすると「ありゃ?結構なオッサンたちでやんの!」とお感じになったことと思われます。
「とにかくね、ここで変な騒ぎは始めないって誓約書にね、代表者はここに住所を書いて署名して」
と威圧的に来る警官に、
「それ、拒否したらどうなんの?書かなきゃいけない訳じゃないよね?」
なんて、ドラマーF氏は警察官相手に軽く否します。さすが年配者は伊達に苦労を積んではいません。
「ま、まぁね…その…、いいから早く片付けて帰るようにねっ」
そう言い残すと若い警官は去って行きました。
「フンッ、口ほどでもねぇ小僧だ!」
警官の姿が見えなくなるや急に強気になる私。これが、権力には逆らえぬ荒くれ者の本領です。
たしかに、マイクや楽器セットさえ傍らに従えてなければ、我々は路上で哀愁漂わせ缶ビール片手に酒盛りしてる気ままなオッサンたちにしか見えません。その点が、若い連中には決して出せない深い味と申せましょう。
何も私は酔った勢いから鬱憤解消にとこの場で下半身を丸出しにして踊り回り、都会の夜を澄まして闊歩する妙齢のご婦人衆に陰部を振り回し襲いかかって新聞沙汰になる予定など微塵もないのです。
ただ、喧騒の駅前で拙い道楽を披露するだけなのです。
善良なカタギ衆にご迷惑とあらば、すぐにでも詫びて立ち去りましょう。
お巡りさんの洗礼も受け、しばしおとなしく過ごし頃合いを見計らったら、さぁ開演です!
カホン担当F氏(右)と私
熟れたMr.テキサスのスライドギターと熱いヴォーカルに合わせ、リズム隊もブルースを奏でます。う~ん、bluesy!
なんてね。
こんなのは初体験で、不思議な気分です。
何しろそこは都会の夜の賑わう駅前、それも台風や大雪の時によくテレビに出てくるお馴染みの東京を象徴する現場なのですから。
せいぜい通りがかりに注目する人がいても、あのオッチャン下手なベース弾いとんで、くらいのもんでしょうが…。
それでも狭いスタジオを借りて仲間内でチマチマ練習するのとは大違い。
寄ってくるのは宿敵たるお巡りさんだけの筈はありません。
日本への観光旅行中との外国人が親しげにやって来たり…
私だけ不器用に仏頂面なのはたまたま
またもや外人の青年が話し掛けて来て、Mr.テキサス愛用の昭和GS全盛時代製造と思しきレアな骨董ギターを手にして弾き始めたりと。
さすが路上ミュージシャンの人気者。早くも海の向こう出身の彼を友達にして、アドレス交換なんぞしています。
スマホの画像でハリウッド女優みたいなカノジョを見せびらかしやがったこの異国青年、今度自前のストラト持参で遊びに来るなんて約束も。
こうして路上活動は、色々なハプニングの連続です。
他にも、訊けばライブ帰りとのベース背負ったベロンベロン状態の兄ちゃんが寄り付いて、演奏に乗ってしっかり歌って踊ってくれたり。
何の物好きか、肝試し自慢か?…若いお嬢さんが演奏中の私の傍に寄ってきて、友達にベースを抱えた私との記念撮影をさせたりと、人生経験初の意外な思いができて、妙な昂揚感を得た次第であります。
無論、大半の人々は普段の私自身がそうであるように、街中でガチャガチャやってる連中がいれば、「うっせーな、馬鹿垂れ共が…」と目を背けて足早に通り過ぎるだけですが。
さて、我々揃って余りの刺激的なひと時にすっかり時を忘れ、気がつけば終電時間オーバー!
いっそ夜通し!?…なんて不埒な勢いながらも、そりゃ人通りも少なくなったしそろそろガソリン切れだと、とりあえず大荷物を片してその場を去り、また居酒屋へと。
眠らない街 新宿となると、24時間営業の安酒場が点在していて、そこは困りません。
左より私,F氏,ブルースマン Mr.テキサス
…で、結局ガソリン注入過多でそのまま演奏復帰不可能。
今後の路上活動を熱く語り、朝まで談笑しての時間潰しコース。
この夜のライブ収益金、合計1,685円。有り難く居酒屋代に活用させて頂きました。
大金千円札を惜しげもなく集金箱に入れてくださったのは、一体どなただったのか…?
遠目で聴いてくださっていた地味な服装の綺麗なお姐さんだったのか…、異国からの観光客だったのか?
五百円玉だって、立派な大盤振る舞いだよね。感謝の気持ちで一杯であります。
また次週、このメンバーで木曜夜の再会を約束し、早朝清く別れヘトヘトで帰還。今度からは終電までに帰るかんねっ!
夜の新宿駅南口前で、泥臭いブルースに興じるオヤジ組がお目に留まりましたら、そこでボロいベースを弾いているのが私です。
くれぐれも、物を投げたり酔って絡んだりしないでください。
お巡りさんに言いつけます。
人生、このままではいけません。
私も、遥か昔…漫画界に身を投じる以前の二十歳頃までは、まだ日々様々な変化や成長があり、夢と頭髪にも恵まれ、この先の我が人生に多大なる期待を抱いておりました。
それがどうでしょう。
夢多きあの頃から幾星霜…。
身も心も砕かれ幸薄く世から蔑まれ、今や不貞腐れた小汚い独り身の老体に他なりません。
そこで、自己の存在を今こそ確認すべく、また新たなる自身の発見を臨み、路上ライブ敢行です。
新宿南口の名物ブルースマン、Mr.テキサスの演奏サポートを名乗り出た私は、知人のドラマーF氏をも誘い入れての、路上ライブ初体験に挑んだ次第です。
この為に私は電池駆動のベースアンプを、そしてF氏は初めて扱うカホンを購入しての参戦。
昨夜のこと、新宿で合流した我々オヤジ組。
まずは景気付けに居酒屋で軽く一杯引っ掛けます。
軽く…と言ってまたいつの間にやらヘベレケになるまでアルコールを浴びてしまっては、今回ばかりは話になりません。クソ重い荷物を腰痛覚悟で運んできた意味がありません。
程よく酩酊気分になったところで、更にコンビニで缶ビールを買い込み、今宵のステージ、新宿駅南口前のガード脇一角を陣取ります。
Mr.テキサスから概略は伺っておりましたが、お話の通りで早々にその “敵” は我々に目をつけ絡んで参りました。
そう、お巡りさんです。
「コラコラ、君たち、わかってるよね?ここでの禁止事項は」
たとえ人様から怪しまれようと職種を訝られようと婦女子から煙たがられようと、清廉潔白に日本の法律に従って慎ましく生きてきた私であります。
それが人生後半に来て、まさか警察のご厄介になろうとは思いもよりませんでしたが、しかしここで怯んではいられません。
こう見えても、反逆のロッケンローラー人生を歩んできた荒くれ者です。
向こうでもお巡りさんが、熱唱するご婦人を咎めております。
あっちでも、フォークギター一本をお供に涙ぐんで歌っていたお兄さんが国家権力から注意を受けて止められています。
こっちもまたしょうもないバンド連中が悪びれもせずおっ始めやがって…と近寄って来た若い警官、我々を間近にすると「ありゃ?結構なオッサンたちでやんの!」とお感じになったことと思われます。
「とにかくね、ここで変な騒ぎは始めないって誓約書にね、代表者はここに住所を書いて署名して」
と威圧的に来る警官に、
「それ、拒否したらどうなんの?書かなきゃいけない訳じゃないよね?」
なんて、ドラマーF氏は警察官相手に軽く否します。さすが年配者は伊達に苦労を積んではいません。
「ま、まぁね…その…、いいから早く片付けて帰るようにねっ」
そう言い残すと若い警官は去って行きました。
「フンッ、口ほどでもねぇ小僧だ!」
警官の姿が見えなくなるや急に強気になる私。これが、権力には逆らえぬ荒くれ者の本領です。
たしかに、マイクや楽器セットさえ傍らに従えてなければ、我々は路上で哀愁漂わせ缶ビール片手に酒盛りしてる気ままなオッサンたちにしか見えません。その点が、若い連中には決して出せない深い味と申せましょう。
何も私は酔った勢いから鬱憤解消にとこの場で下半身を丸出しにして踊り回り、都会の夜を澄まして闊歩する妙齢のご婦人衆に陰部を振り回し襲いかかって新聞沙汰になる予定など微塵もないのです。
ただ、喧騒の駅前で拙い道楽を披露するだけなのです。
善良なカタギ衆にご迷惑とあらば、すぐにでも詫びて立ち去りましょう。
お巡りさんの洗礼も受け、しばしおとなしく過ごし頃合いを見計らったら、さぁ開演です!
カホン担当F氏(右)と私
熟れたMr.テキサスのスライドギターと熱いヴォーカルに合わせ、リズム隊もブルースを奏でます。う~ん、bluesy!
なんてね。
こんなのは初体験で、不思議な気分です。
何しろそこは都会の夜の賑わう駅前、それも台風や大雪の時によくテレビに出てくるお馴染みの東京を象徴する現場なのですから。
せいぜい通りがかりに注目する人がいても、あのオッチャン下手なベース弾いとんで、くらいのもんでしょうが…。
それでも狭いスタジオを借りて仲間内でチマチマ練習するのとは大違い。
寄ってくるのは宿敵たるお巡りさんだけの筈はありません。
日本への観光旅行中との外国人が親しげにやって来たり…
私だけ不器用に仏頂面なのはたまたま
またもや外人の青年が話し掛けて来て、Mr.テキサス愛用の昭和GS全盛時代製造と思しきレアな骨董ギターを手にして弾き始めたりと。
さすが路上ミュージシャンの人気者。早くも海の向こう出身の彼を友達にして、アドレス交換なんぞしています。
スマホの画像でハリウッド女優みたいなカノジョを見せびらかしやがったこの異国青年、今度自前のストラト持参で遊びに来るなんて約束も。
こうして路上活動は、色々なハプニングの連続です。
他にも、訊けばライブ帰りとのベース背負ったベロンベロン状態の兄ちゃんが寄り付いて、演奏に乗ってしっかり歌って踊ってくれたり。
何の物好きか、肝試し自慢か?…若いお嬢さんが演奏中の私の傍に寄ってきて、友達にベースを抱えた私との記念撮影をさせたりと、人生経験初の意外な思いができて、妙な昂揚感を得た次第であります。
無論、大半の人々は普段の私自身がそうであるように、街中でガチャガチャやってる連中がいれば、「うっせーな、馬鹿垂れ共が…」と目を背けて足早に通り過ぎるだけですが。
さて、我々揃って余りの刺激的なひと時にすっかり時を忘れ、気がつけば終電時間オーバー!
いっそ夜通し!?…なんて不埒な勢いながらも、そりゃ人通りも少なくなったしそろそろガソリン切れだと、とりあえず大荷物を片してその場を去り、また居酒屋へと。
眠らない街 新宿となると、24時間営業の安酒場が点在していて、そこは困りません。
左より私,F氏,ブルースマン Mr.テキサス
…で、結局ガソリン注入過多でそのまま演奏復帰不可能。
今後の路上活動を熱く語り、朝まで談笑しての時間潰しコース。
この夜のライブ収益金、合計1,685円。有り難く居酒屋代に活用させて頂きました。
大金千円札を惜しげもなく集金箱に入れてくださったのは、一体どなただったのか…?
遠目で聴いてくださっていた地味な服装の綺麗なお姐さんだったのか…、異国からの観光客だったのか?
五百円玉だって、立派な大盤振る舞いだよね。感謝の気持ちで一杯であります。
また次週、このメンバーで木曜夜の再会を約束し、早朝清く別れヘトヘトで帰還。今度からは終電までに帰るかんねっ!
夜の新宿駅南口前で、泥臭いブルースに興じるオヤジ組がお目に留まりましたら、そこでボロいベースを弾いているのが私です。
くれぐれも、物を投げたり酔って絡んだりしないでください。
お巡りさんに言いつけます。